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…
聞こえ…ない…?
…
…嘘でしょ?
でも、そんな…バカな…
「聞こえるかい?」
「…いえ」
納得できなかった。
首の下に流れている頸動脈に指を当てる。
その方が、よりはっきりと心臓の鼓動を読み取れるからだ。
でも…
聞こえ…ない…?
彼の目を見た。
自然と、彼の方を見てしまった感じだった。
目が合うなり、彼は視線を落とす。
その仕草はどこかぎこちなく、暗い面持ちだった。
さっきまでのハイテンションが嘘のようだった。
バツが悪そうな、…というか、どこか、具合が悪そうな。
「なんで…?」
思いっきり摩ってみる。
いや、摩っても意味ないのはわかってるんだけどさ?
再度胸の周りを探るように指を動かしてみた。
聞こえないはずがないと思った。
シャツ越しに、彼の肌の温もりが感じられる。
ぷにぷにした肉の触感が、布の生地の下に感じられる。
体に血が通ってないと、こうはならない。
目の色も、肌の質感も。
…もしかして、人造人間(アンドロイド)の可能性がある?
それとも、やっぱりサイボーグ?
そんな突拍子もない発想が不意に頭に掠めてしまったのは、心臓の“気配”が、どこにも感じられなかったからだ。
体の、——どこにも。
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