1. 十三本の糸

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1. 十三本の糸

ぴん、と澄んだ高音が響いた。 (こと)に張られた13本の糸。 彼女が調律の仕上げに爪で弾くと、テトロン製の糸が気持ち良く鳴った。 「はい。糸締(いとし)め、終わりました」 村上(むらかみ)和音(かのん)が凛とした声で告げた。 とは思えない、高尚な空気をまとって。 6人の先輩たちは誰もが「あり得ない」と呆然(ぼうぜん)としていた。 「――なんで」 その場にいる全員を代弁したのは部長の伊東(いとう)先輩だった。 「糸締めって普通、職人じゃないとできないよ? なんで村上さんが……」 「まぁ、見よう見まねというか」 和音は気だるげに答えた。 「Youtubeに和楽器屋さんの解説動画があったので、それを参考に」 「だからってそんな簡単そうに――」 ようやく他の先輩たちも我を取り戻し、口々にしゃべりだした。 「本当に初心者?」 「わたしたちだってできないのに」 ざわつく先輩たちの中で一人、わたしは立ち尽くしたままだった。 高校生になったこの春、憧れの箏曲(そうきょく)部に入った。 最高の友達になれると思っていた唯一の同期は、最初から雲の上の存在だった。
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