いざ、せつ子街に!

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「お待たせしました。それでは歌っていただきましょう。松田雅美さんで、聖者の行進」  バンドが軽快にイントロを奏でる中、母が舞台に駆け上がる。すると群衆からワッと弾けるような歓声が上がった。  力強い声で母が歌い始めると、一斉に手拍子が始まる。会場が総立ちになり、手を打ち鳴らし、体でリズムを取る。拳を突き上げて喜ぶ若者がいる。腹の底から響くソウルフルな歌声に、バンドもノリノリだ。 「隆史君のお母さん、めっちゃカッコいい!」 「そやろ!」  負けじと声を張り上げる。  名残惜しそうに赤いドレスを見つめた母は、今もアイドルになる夢を、胸の奥に秘めているのかも知れなかった。  それならそれで、俺は応援するだけだ。  会場のボルテージが最高潮に達したとき、母の腹の上で、牙をむいた百獣の王が「ガオーッ」と吠えた気がした。                         了
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