いざ、せつ子街に!

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 その昔、母の夢はアイドルになることだった。祖父母に内緒でオーディションに申し込んだことがバレ、芸能界なんてとんでもない! と大目玉をくらって泣く泣く諦めたという。  夢は諦めた母だったが、歌は捨てなかった。コロナで立ち消えになるまではママさんコーラスに所属し、よく通るソプラノで歌った。  どこかでカラオケ大会やのど自慢があれば積極的に参加し、昭和の歌謡曲を熱唱した。居間の棚には、その時取ったトロフィがずらりと並んでいる。  俺はそんな母が誇らしかった。家族総出で応援するのが当たり前だと思っていた。  そう。コロナ以前の俺は、まだ羞恥心の芽生えていない、ほんの子ども(ガキンチョ)だったのだ。
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