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玄関を開けると、カレーの匂いが出迎えた。
「隆史、お帰り」
カレーの味見をしていた母が振り返る。鞄から弁当箱を出して流しに置いたが、ちらと横目で見ただけで何も言わなかった。冷蔵庫からキュウリを取り出して、トトトと切り始める。
クソババァと叫んだことを謝りたいのだが、どうしても素直に言葉が出てこない。
「俺も味見したい」
その代り、少し恥ずかしかったが言ってみた。
「味見で足りるん?」
笑いながら、母が小皿にルーをよそってくれる。小学生の頃は、よくこうやって味見させてもらった。見上げていた母の顔が、今は俺の斜め下にある。
「出てもええよ」
包丁を握る母の手が一瞬止まった。
「ジャズフェス、出てもええから」
綺麗に舐めた小皿を返し、「腹減ったー」と大声で言いながら風呂場に向かった。
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