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「もう、心配しすぎ。ちゃんと駅に向かってるよ? うん。……ちょっと、私のこと何歳だと思ってるの。え? ナンパ? 私があうわけないって」
岩見楓は、イヤホンから流れてくる恋人の小言に苦笑した。
下野蓮とは大学からの付き合いだが、彼の心配症はその頃から変わらない。
スマホのマイク部分に「大丈夫だよ」と答えながら、楓は左手の薬指に輝くシルバーのリングをうっとりと眺めた。
先週買ったばかりのリングには傷一つない。これから小さな傷が増えるのを愛しく思うのだろうという気持ちと同時に、この指輪より新しい物を指にはめる方が先かもしれないという思いが交互する。
「ふふっ。……別にいいでしょ。私だって一人で笑うぐらい……っわ、ごめんなさ……って、陸人!」
「『わ』って。変な声」
「うるさいなー。あ、蓮、ナンパの心配なら大丈夫だよ。ちょうど陸人と会ったから一緒に行くね。じゃあね」
電話の先でまだ蓮が話していたようだが、楓は構わずスマホの通話を終了させた。隣には白の半袖シャツとジーパン姿の幼馴染の姿があった。
「おれはまだ一緒に行くとは一言も言ってないんだけどな」
「でも、向かう場所は同じでしょ?」
「はいはい。楓様のおっしゃるとーりです」
「ちょっとなにそれ」
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