P1 幸福の絶頂?

1/3
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ

P1 幸福の絶頂?

 わたくしは名ばかりの侯爵夫人、お飾りの妻でした。  旦那様にとってわたくしは、最初から王命によって仕方なく娶らされた、形ばかりの配偶者だったのでしょう。そんな事も知らず、わたくしはついにエルネスト様の求婚を受けたと、あの女嫌いで有名な「氷の貴公子」様のお心すら射止めることができたのだと有頂天になっておりました。  思えば婚約の際の顔合わせの時からおかしかったのです。 「パトリツィア嬢、これは政略結婚です。お互いに恋愛感情を抱くのは難しいでしょう。それでも、双方が協力して努力すれば、家族として温かな愛情のある夫婦になることはできるかもしれません。私とともに歩む努力をしていただけますか?」 「もちろんですわ」  わたくしは迷わず即答しました。  年頃の令嬢たちの憧れの眼差しを一身に集めながら、浮いた話の一つもない「氷の貴公子」ともあろうお方が、素直に女性への好意を口にできるとは思いません。社交界の華と呼ばれ、数々の貴公子たちから愛を囁かれるこのわたくしに恋焦がれてはいるものの、わたくしの愛を自分だけのものにできるとは思えないのでしょう。  わたくしはみなさまに愛される宮廷の華、わたくしの愛は等しくみなさまに注がれるものなのですから。  だから、せめて「家族としての愛情」だけでも我が身に与えてほしいと(こいねが)っておられるのだと、固く信じておりました。旦那様の心は、とうの昔からあのお方ただお一人のものだったとはつゆ知らずに。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!