P1 幸福の絶頂?

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 旦那様はわたくしのことを侯爵夫人として常に尊重してくださいました。  社交のためのドレスや宝石は、必要になるつど、最高級のものを作らせてくださいました。使用人たちもわたくしの事を女主人として敬い、きめ細かな配慮とともに従順に振舞います。誕生日や記念日にはこまめに贈り物を下さいます。  いずれも最高級の品質であるのみならず、実に洗練されて気の利いた、侯爵夫人の持ち物にふさわしいものばかり。  その洗練されたセンスと質の高さに、わたくしは社交の席で常に羨望(せんぼう)の眼差しを向けられておりました。  それを選んだのは旦那様ではなく、あのお方だったとは、あのお方が亡くなるまで全く存じませんでした。  我が家で茶会やパーティーを開く時は、わたくしが何も言わなくても執事や家政長が完璧な差配(さはい)でお客様を楽しませてくれます。  毎回様々な趣向が凝らされており、目が肥えていて気難しいと評判のお客様も、我が家の催しだけは楽しみにしているとおっしゃるのです。「さすがはタシトゥルヌ侯爵夫人」と皆様に讃えられ、わたくしはすっかり良い気分でした。  その賛辞がわたくし自身に向けられたものではないとも知らずに。
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