26人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
E1 始まりは勘違い
それは紛れもない政略結婚だった。
由緒正しき侯爵家のご令嬢とは思えない激しい男性遍歴。子爵家や男爵家と、見事なまでに下位貴族の次男三男ばかり、次から次へと誘われるままに関係を持っている。
常に男性に誉めそやされ、傅かれ、激しく求められていなければ気が済まないらしい。
そんな彼女にまともな縁談があるはずもなく。
ついに二十二歳と、この国の貴族令嬢にしては適齢期を過ぎつつある年齢になってしまった。
そんな彼女は当然のことながら家格が釣り合う様な高位貴族からの縁談は全くないのだが、本人は自分が社交界の華で誰もが婚姻を望んでいると思い込んでいるらしい。
自分に持ち込まれる裕福な下位貴族からの縁談を鼻で笑いながら、一日も早く自分にふさわしい縁談を持ってこいと父親や兄にわめきたてているのだそうだ。
俺に王命によるその縁談が持ち込まれたのは、彼女と家格と年齢が釣り合いそうな高位貴族の独身男性が他にほとんどいなかったせいだろう。
家格に合わない結婚は、ご令嬢とそのご実家に何らかの欠陥があると知らしめるようなもの。財務大臣を輩出してきた王党派の由緒正しきコンタビリタ侯爵家の名誉が失墜すれば、王党派そのものの勢力が縮小しかねない。
何とかしてうわべだけでも体裁の整った結婚を一度はさせる必要があったのだ。王命とあらば俺に拒むすべはない。
それに、第二王子殿下のお気に入りを強引に俺の手元に置いている負い目もある。どうせ、誰を娶ったところで本気で恋愛感情を抱く事などできないのだ。色々と諦めた上で、せめて穏やかな家庭を築くために精一杯努力することにした。
最初のコメントを投稿しよう!