E10 黒い疑惑

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 着々と奴らの摘発の手筈は整いつつある一方で、『妻』はイプノティスモ家の次男と大っぴらに遊び歩くようになった。  以前は単なる取り巻きの1人だったのだが、先日の夜会以来、頻繁に外で会っているらしい。侍女からの報告を受けて一応苦言は呈しておいたのだが、やれ妻を疑うなんて酷いの、告げ口した侍女はズルいのと泣き喚くので、終いには付き合いきれなくなって放置してしまっている。  おそらく男の方は我々の手の内を探りつつ、あの女を共犯に引きずり込むことで摘発の手を緩めさせるつもりだろうが、いざとなったらあの女ごと断罪するのみだ。俺自身は家名など気にしないし、奴らを根こそぎ摘発出来れば派閥の力関係も気にしなくて済む。  建前上の『妻』であったとしても、さんざんに裏切られ続けた今となっては切り捨てる事に躊躇(ちゅうちょ)はない。  大々的な摘発になる以上、騎士団を動かさざるを得ないので、それだけにしっかりとした裏付けがいる。一味の取りこぼしがあれば、またどこかで同じ手口で同じことをやりだすに違いない。  貧困にあえぐこどもたちは元手のいらない商売道具になる。仕込んで価値を上げても良し、使い捨てにしても良し。  そんな事をさせないために、組織の隅々まで一斉に取り締まらなければ。そのためにも、徹底的な調査あるのみである。  結局、今夜も退庁できたのは外が完全に宵闇(よいやみ)に包まれた後だった。
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