P6 夢の逢瀬(おうせ)

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 さすが、王都きっての人気店だけあって、『エラヴィッラ』はため息が出るほどの素晴らしい店構えでした。  趣味の良い絵画が飾られた壁に、精緻(せいち)ながらも華美過ぎない彫刻が施された大理石の柱、フレスコ画が描かれた天井……貴族の屋敷と見まごうばかりに豪奢(ごうしゃ)な造りの店内では、世界中から集められた最高級の工芸品が、至る所でぜいたくに使われております。  食前酒を楽しむウェイティングバーの床で優しく足を受け止めてくれているのは高価なアリアナ製の絨毯。天井で燦然(さんぜん)と輝くのはヴィーフォッドのクリスタルを用いたシャンデリア。はるか極東シャンギャンから取り寄せた白磁が飾られているのは、落ち着いた飴色の輝きを放つヤルヴィ製の調度の数々。  古今東西の美の競演。それがこのエラヴィッラの店内でございます。  そして、各々の個室には、それぞれ違った趣向が凝らしてあります。わたくしたちは東方風のお部屋で夕食を愉しみました。  室内に漂う甘やかな芳香は南のシェミッシュから取り寄せたもの。はるか東方のタクシャシラから届いた香炉は、その細やかで美しい七宝細工で、わたくしたちの鼻だけでなく目までも楽しませてくれます。  異国情緒の漂うお部屋で過ごしていると、なんだか開放的な気分になってしまうのは実に不思議でございますわね。
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