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子供部屋に入ろうとしたところで、帰宅したパトリツァとばったり鉢合わせた。
妙に顔が赤く火照っているし、吐く息が酒臭い。
更にどぎつい香水の匂いも複数入り混じっていて、近くによるとむせ返りそうな甘ったるさだ。
「お帰りなさいませ、夫人。ちょうどアナトリオ様がお休みになるところです。ご一緒に寝かしつけなさいますか?」
風呂上りのトリオを抱っこして上機嫌のディディが嫣然と微笑んでパトリツァを誘うと、なぜか彼女は逆上してしまった。
「結構ですわ。わたくしは我が子を甘やかして、一人で眠る事もできぬような出来損ないにするつもりはございませんの。お前も出しゃばって余計な事はしないように」
ヒステリックに喚き散らすと、そのままドスドスと足音も荒々しく立ち去ろうとする。
「パトリツァ?貴女は何か勘違いしていませんか?」
いくら下位とはいえ、使用人でもない貴族にお前呼ばわりはないだろう。ディディはれっきとした子爵だぞ?
高位貴族であっても、まともな人間なら下位貴族に対して必要以上に居丈高に振舞ったり、あろうことか面と向かってお前呼ばわりするような下品な真似はしない。
品位と節度ある行いで規を垂れ範を示し、民草を守り導いてこその高位貴族だからだ。
だから高貴な身分の者ほど、誰に対しても親切丁寧に接するように厳しく躾を受ける。
実家のコンタビリタ家ではまともに躾をしなかったのだろうか?
彼女の兄のマッテオを見ていると、とてもそうは思えないのだが……
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