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「勘違いしているのはあの者でしょう?わたくしは気分が悪いのでこれで失礼いたしますわ」
「あ、待ちなさいパトリツァ。他にも話があるんだ」
いかん、今日のうちにイプノティスモの次男との件をきちんと話し合わなければ。家の外でここまで派手な事をされてしまっては、のちのち思わぬ禍根を残すことにもなりかねない。
「気分が悪いと申しております。旦那様もお暇ではないのですから、アナトリオの事は乳母にまかせてお仕事にかかられてはいかが?おやすみなさいませ」
パトリツァは恨みがましい目に涙をためて、俺とディディを憎々し気に睨みつけてから踵を返した。
肩を怒らせ、とても貴族の夫人とは思えぬようなドスドスという荒々しい足音を立てて。
あれで本当に元侯爵令嬢なのか?
まさかコンタビリタ家ではまともな歩き方も教えていないのだろうか?
「あらら……取り付く島もないね。イプノティスモ殿のこともあるし、困ったなぁ……」
パトリツァを賢い女性だと言う話は、たとえ見え透いた社交辞令でさえ一度も耳にしたことはないが、ここまで話が通じないのは理解する頭がない以前に訊く耳を持たないからだろう。
全然困っているようには思えないディディののんびりした声を聞きながら、俺はこれから彼女とどう接したものかと苦悩するのであった。
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