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P7 疎外感
エスピーア様との夢のようなひと時を終えて帰って来たわたくしが子供部屋の前を通りがかりますと、ちょうど旦那様がアナトリオを抱いたあのお方と共にいらっしゃいました。
「お帰りなさいませ、夫人。ちょうどアナトリオ様がお休みになるところです。ご一緒に寝かしつけなさいますか?」
あの方が嫣然と笑って母親気取りで話しかけて来られます。貴族の子女がいちいち親に寝かしつけられねば眠れないなど、あってはならないことですのに。
子供の世話は乳母に任せ、母親は余計な関わりを持たぬのが正しい貴族の在り方というもの。乳母でもないあの方がしゃしゃり出て良い幕ではございませんわ。
「結構ですわ。わたくしは我が子を甘やかして、一人で眠る事もできぬ出来損ないにするつもりはございませんの。お前も出しゃばって余計な事はしないように」
侯爵夫人にふさわしく毅然とした態度で出過ぎた真似を叱りつけると、旦那様の訝し気な咎めるような声に遮られました。
「パトリツァ?貴女は何か勘違いしていませんか?」
「勘違いしているのはあの者でしょう?わたくしは気分が悪いのでこれで失礼いたしますわ」
「あ、待ちなさいパトリツァ」
「気分が悪いと申しております。旦那様もお暇ではないのですから、アナトリオの事は乳母にまかせてお仕事にかかられてはいかが?おやすみなさいませ」
こんな時ですら旦那様はあの方の肩を持つのです。
わたくしは悔しさに涙が零れそうになるのを懸命に堪え、夫婦の寝室に向かいました。
旦那様は、今夜も寝室にはいらっしゃいませんでした。
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