P7 疎外感

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 翌朝、いつもより遅く目覚めたわたくしは、テラスから聞こえる鈴を振るような笑い声に心惹かれてそちらに向かいました。  見ると、あの方がつかまり立ちをするアナトリオを支え、伝い歩きの練習をさせているではありませんか。  旦那様のもとへと一歩、また一歩とおぼつかない足取りで歩みを進めるアナトリオを、旦那様が(とろ)けるような(いと)おし気な笑顔で見守っておられます。   「お父様のところに到着!がんばりましたね」 「よくやったな、これでこそ私の子だ」  旦那様のもとにたどり着いたアナトリオは、父親に抱きあげられ、頬ずりされて実に嬉しそう。きゃっきゃと笑いながら甘えるようにしがみついておりました。  (かたわ)らであの方も嬉しそうに二人を見上げておられます。見守る使用人たちも一様に幸せそうな、温かな笑顔に満ち(あふ)れております。  その温かな輪の中にわたくしは存在しません。  輝くような幸せに包まれた光景に、わたくしは疎外感と惨めさに苛まれながら誰にも気づかれぬよう、とぼとぼとその場を立ち去るほかありませんでした。  朝食を終えるとわたくしにはもう今日の予定はございません。  茶会やパーティーを開くにも旦那様のお許しが要ります。今のお仕事が一段落つくまでこのお屋敷に人を入れるのは控えてほしいとおっしゃっていて、当分の間は茶会を開くことも難しいのです。  こんな時こそ、どなたかお誘い下さればよろしいのに。
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