D8 すれ違う夫婦

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 翌朝もトリオの歩く練習につきあってから登庁して政務に励んだ。もちろん月虹教団の摘発が最優先なんだけど、他の仕事もないわけじゃないからね。  あらかた書類が片付いたところで屋敷から急ぎの使いが。どうしたんだろう? 「パトリツァがティコス家の娘と接触したそうだ。随分と意気投合したようだな」  ティコス家のプルクラ嬢と言えば、エスピーア殿が集めてきた子供たちを仕込む役回りの人だよね。  何も知らなければ少し色っぽいだけの普通のご令嬢だけど、裏でやっていることは女衒も真っ青の人身売買だ。  エスピーア殿だけでも頭が痛いのに、大丈夫かな…… 「念のため早めに帰宅して話をしてみる」 「僕は時間をずらして帰った方が良さそうだね。僕がいると意固地になって聞く耳持たなくなるから」  つい失言して逆上させてしまう僕は、いない方が話を聞きやすいだろう。先にエリィに帰ってもらって、話を聞いている頃合いを見計らって帰宅する。  後で執務室で合流して話を聞いてみると、プルクラ嬢との会話そのものは世間話程度で大したことはなかったみたい。  芝居に誘われたのと、近々屋敷に呼んでお茶をしたいとのこと。人目の多い劇場やうちの屋敷の中なら、そうそうおかしなこともされないだろうという事で許可したそうだ。  夫人がやる気満々だから今日は寝室を共にしないと、と苦笑していた。苦手意識が前面に出ていて、さすがに夫人がちょっと気の毒なんだけど……  もともと女性が苦手な上に、エリィが一番嫌うタイプの女性。  申し訳ないけど、僕から何か口添えしてあげることはできそうにない。  お互いに割り切った政略結婚の筈なんだけど、夫人はエリィを微塵(みじん)も愛してないのに、エリィが自分に心底惚れ込んでいて当然と思ってるところがあるから困る。  もちろん、政略結婚でもお互いの努力で愛のある家庭は築く事は可能なんだろうけど……見事なまでにお互いその気がないからね。  それでもエリィは夫人を尊重する姿勢は見せてたけど、夫人はエリィの事を所有物扱いだから……  最近はエリィも諦めて勝手にしろって思ってるみたいだね。  本音を言うと、僕もちょっと……いやかなり面白くない。  彼はそんなに安っぽい人間じゃないんだ。  政略でも何でも、せっかく結ばれたんだから大切にしてほしい。僕にはどうあってもできないことだから。  今夜はあまり熟睡できそうにないなぁ……
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