P8 素晴らしい出会い

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P8 素晴らしい出会い

 自室に戻ったわたくしが暇を持て余しておりますと、侍女が声をかけてまいりました。 「奥様、今日はとても気持ちの良いお天気です。こんな日には外宮のお庭を散策されるのも素敵でしょうね。ちょうどアイリスが見頃でございます。軽食を持ってピクニックなどはいかがでしょうか?」 「あら、悪くないわね」 「アナトリオ様をお連れになれば、きっとお喜びになりますわ」  完璧な笑顔でこんな提案をしてきました。  たしかに外宮のお庭はいつも季節のお花が咲き誇り、貴賤を問わずこのイリュリアの人々の憩いの場となっております。  まだ一歳を迎えたばかりのアナトリオを連れて行くのは気が進みませんが、散策にはちょうど良いかもしれません。 「そうね。これから軽く散策してきましょう。何かあるといけないからアナトリオは連れて行かないわ。外宮に行くだけだから供も不要です。カフェテリアで食べてくるから昼食は不要よ」  このように申し付けて、日傘だけ持って馬車に乗ります。御者に迎えに来る時間を告げて庭園に向かいました。  庭園につきますと、たしかに侍女の申した通り、アイリスの花が美しく咲き乱れておりました。  うららかな初夏の陽気に誘われて、そこここに談笑する人々の姿が見えます。わたくしは日傘を片手に、何をするともなく美しく整えられた庭園の小径をそぞろ歩いておりました。
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