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プルクラ嬢のお話では、イオニアから来た劇団がとても気の利いた芝居をしているとか。
「ぜひ一度見てみたいわ」
「まぁ、それではわたくしとご一緒しませんか?」
わたくしの思わず漏らした言葉に、プルクラ嬢がすかさず答えます。
こうした気の利いたところもこのご令嬢の美点ですわね。
「それは嬉しいけれども……人気のある劇団ですもの、チケットを取るのは大変でしょう?」
「いえ、わたくしの親戚が劇団の後援者なのです。そちらから手配すれば、特等席で観られましてよ」
「まあ、なんて素敵なんでしょう」
わたくしはすっかり嬉しくなって、「ぜひ我が屋敷にも遊びにいらしてください」と、彼女をご招待してしまいました。
大がかりな茶会ならばともかく、ご令嬢お一人でしたら旦那様も否やはおっしゃいませんでしょう。
あの方が何か言いがかりをつけるかもしれませんが、その時は身の程を思い知らせてやれば良いのです。
プルクラ嬢との愉しい時間のおかげで、わたくしの沈んだ心もすっかり明るくなりました。
屋敷に帰りついた頃には、朝の不愉快なできごとなど、きれいさっぱり記憶の彼方へと飛び去ったのでございます。
屋敷に戻ったわたくしは、さっそく侍女に近日中にプルクラ嬢をお招きする旨を伝えました。
侍女たちはわたくしが散策を楽しんできた様子に喜んでくれたようです。
朝はわたくしがふさぎこんだ様子だったので、とても心配していたのだとか。
この家に居場所がないというのは、わたくしの思い過ごしかもしれません。
使用人たちはいつだってわたくしを侯爵夫人として尊重し、きめ細やかに配慮して従順に振舞っています。
今日だってわたくしが沈んだ様子なのを気遣って、散歩に出るよう提案してくれたのです。
その忠誠を疑い、勝手に疎外感を覚えていた自分のひがみ根性が恥ずかしゅうございます。
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