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あたりが暗くなった頃、旦那様がお帰りになりました。珍しくあのお方はご一緒ではない様子。わたくしの心はますます軽くなりました。
「お帰りなさいませ、旦那様。今日は良い一日でしたか?」
「わざわざありがとう、パトリツァ。今日も仕事ははかどりましたよ。
このところ政務漬けで一緒に食事もできず、すみませんでした。今日の夕飯はもう済ませましたか?」
旦那様はわたくしと夕食を召し上がるおつもりのようです。なんという素晴らしい日でございましょう。朝の些細な出来事が下らなく感じられて参りました。
「まだいただいておりませんわ。旦那様もご一緒にいかが?」
「よろこんでお相伴にあずかります。では後ほど食堂で」
夕飯は、久しぶりに夫婦二人きりでした。わたくし一人でもなく、あの方とご一緒の三人でもなく。
わたくしは嬉しくて、今日あった出来事をお話しました。
プルクラ様と芝居を見に行くお約束をしたこと、彼女をこの屋敷にお招きするようお約束したこと。
旦那様は少しだけ考えこまれたご様子でしたが、笑顔でどちらもお許しくださいました。
「貴女がわざわざお一人だけ屋敷にご招待するということは、よほど親しいお友達なのですね。丁重におもてなしするよう、皆に申し付けておきましょう。ぜひ楽しい一日をお過ごしください」
旦那様はまるで神殿の彫刻のように神々しいまでの美しい笑顔でそうおっしゃいました。
わたくしはなぜこのお方の愛情と真心を疑ったりしたのでしょうか。このようにわたくしを尊重し、わたくしの希望を叶えて下さる旦那様が、わたくしを疎んじている筈がございません。
あのお方は本当にただの部下、お友達なのでしょう。この日は本当に久しぶりに夫婦の寝室で揃って朝を迎えたのでございます。
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