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夕刻になり、ほどほどの政務が片付いた頃、屋敷から使いの者が来た。
と、いう事はパトリツァが誰か要観察対象と接触したという事だろう。ディディと顔を見合わせてから渡された紙に目を走らせる。
「パトリツァがティコス家の娘と接触したそうだ。随分と意気投合したようだな」
「大丈夫なの?イプノティスモ家の次男ともだいぶ深入りしてるみたいだけど……」
「念のため早めに帰宅して話をしてみる」
「僕は時間をずらして帰った方が良さそうだね。
僕がいると意固地になって話を聞く耳持たなくなるから」
気が重いが、とにかく機嫌を取って話をするしかないだろう。残る政務をあらかた整理すると、後はディディに任せて早めに退庁した。
帰宅すると、パトリツァは上機嫌で玄関に出迎えに来た。
「お帰りなさいませ、旦那様。今日は良い一日でしたか?」
「わざわざありがとう、パトリツァ。今日も仕事ははかどりましたよ。
このところ政務漬けで一緒に食事もできず、すみませんでした。今日の夕飯はもう済ませましたか?」
俺が尋ねると、パトリツァは一瞬目を瞠ると驚きと喜びを露わにしたが、次の瞬間にはとりすました顔になってフンと鼻を鳴らし、高飛車な口調で答えた。
「まだいただいておりませんわ。もしよろしければご一緒できませんか?」
「もちろんです。では後ほど食堂で」
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