P2 社交の華

1/3
前へ
/148ページ
次へ

P2 社交の華

 今宵(こよい)は年に二回開かれる、王家主催の夜会です。  わたくしは旦那様の瞳と同じ蒼いシュミーズドレス、旦那様は黒の礼服にわたくしの髪と同じ赤いタイとチーフを合わせて出席しました。旦那様のご衣装の襟元や袖口に施された繊細な薔薇の刺繍もやはり赤。  互いにパートナーの色を身にまとったわたくしたちは会場内の視線を一身に浴びておりました。  いつものようにみなさまの注目のもとでファーストダンスを済ませると、数多くの殿方がわたくしに次の曲のお相手を申し出られます。  お断りするのは心苦しいので、わたくしは申し出られた順に次々と踊り出しました。  旦那様は踊るわたくしたちの邪魔にならぬよう、そっと壁際に向かわれたようです。  そちらで旦那様の胸元を飾るタイのような赤い髪と、カフスに輝くパパラチアのような瞳のあのお方が待っておられましたが、わたくしは請われるままに踊ることで精いっぱいで、全く気付くことがありませんでした。  これも侯爵夫人として、大切な社交でございます。  にも拘わらず、わたくしがみなさまと踊り終えてすっかり疲れているのに、旦那様は昔からのお友達との会話に夢中。第二王子のマリウス殿下をはじめ、そうそうたる方々がご一緒だというのに、わたくしを紹介しようという素振りすらございません。  やれ天候がどうの、作物の出来がどうのと、実につまらない話題で盛り上がっておられます。今流行っているお芝居ですとか、、素敵なお菓子や宝石など、そういう楽しいものに話題を変えて、わたくしが仲間に入れるように配慮してくださってもよろしいのに。  もしかすると、古いお友達との下らないお話に夢中になっていて、わたくしが踊り終えた事に気付いてすらおられないのかもしれませんね。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加