E13 侮れない小娘

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E13 侮れない小娘

 ティコス家の娘が来ると言う日、少し早めに帰宅すると、ちょうど客人がお帰りになるところだった。  見事な黒髪の妖艶な娘。  なるほど、あれがパトリツァが今入れあげているというプルクラ・ティコスか。  とても十七とは思えぬ大人びた娘で、堂々とした立ち居振る舞いや強い意志を感じさせる眼差しは、パトリツァよりもよほど貴婦人らしい威厳に満ちている。  服装は決して華美ではないが、上質な絹を幾重にも重ねた凝ったデザインで、趣味は良いが一介の男爵令嬢にはいささか分不相応な品だろう。 「旦那様、こちらはティコス男爵家のプルクラ様ですわ。ちょうど今お帰りになるところですの」 「ごきげんよう、ティコス令嬢。今日はお楽しみいただけましたか?」 「本日はお招きありがとうございます。とても楽しい時間を過ごさせていただきましたわ。次はぜひ我が家にお越しくださいと、奥様にお願い申し上げたところですのよ」 「それは良かった。これからも妻をよろしくお願いいたします」  お互いにこやかに社交辞令を交わしながら、目は全く笑っていない。  いやむしろ、十七の小娘とは思えぬほどの冷たい敵意と殺気が入り混じった視線に、これは捜査の手が自分たちの間近に迫っているのを察してこちらの手の内に探りに来たのだと悟った。  この挨拶は、ある種の宣戦布告のようなものだろう。  小娘とは言え、侮ると手痛いしっぺ返しを食らいそうだ。
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