P2 社交の華

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 わたくしが憤懣(ふんまん)やるかたない思いでおりますと、先ほどダンスにお誘いくださったイプノティスモ家のエスピーア様がバルコニーで休憩しないかと誘ってくださいました。  せっかくのお誘いですが、とても遊び慣れた風情のお方なので、少々戸惑ってしまいます。  もし旦那様が見咎められるならばやめておこうと、エスピーア様のエスコートでバルコニーに向かいましたが……旦那様はわたくしにちらりと目をやっただけで何もおっしゃることはございません。  むしろご自身に寄り添うようにして立つあのお方と穏やかに微笑みあいながら語り合うのに夢中で、他の殿方にエスコートされているわたくしの事など気にも留めておられないご様子でした。  なぜか胸の奥がチクチクと痛んだのは気のせいでございましょう。だって旦那様はわたくしに求愛されたのですから。愛されているのはわたくしで、旦那様はわたくしの愛を求める側なのです。  夜会は夜通し行われます。にもかかわらず、旦那様は世も更けぬうちだと申すのに、早々に帰ると言い出しました。  とんでもない事でございます。夜会の晩には夜通し交流を深めるのが社交というもの。少しでも多くの方々と交流し、噂話を交換して、社交界での存在感を維持しなければなりません。  不甲斐ない旦那様の代わりにわたくしが夜通しみなさまとの交流をはかることにいたしましょう。
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