マリア(海野次生version)

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マリア(海野次生version)

「だって、さっき野々宮沙羅さんを崖から突き落として殺したじゃん」  こともなげに美少女作家はオレを犯人扱いしてきた。 「えェ?」なにを言い出すんだ。  この子は。  まるで見てきたようなことを言った。  だがそんな事はあり得ない。  尾行には細心の注意を払ったつもりだ。 「あなたには野々宮沙羅さん殺害の容疑が掛かっています」  続いてビジュアル系弁護士が切り出した。 「なんの事だ」  そんなはずはない。バレるはずはない。  オレはパニックを引き起こしそうだ。    突然、マリアが缶コーラの栓を開けた。 『プッシュー』と音を立てて泡がこぼれだした。 「うッ!」オレは驚いて呻いた。 「キャキャッ」マリアの手が淡だらけだ。楽しそうにはしゃいだ。 「あのですねェ。示談の交渉(はなし)はまだしも野々下(ののした)だか、野々上(ののうえ)だか知らないが、そんな女性は知りませんよ」  オレはシラをきった。 「マジでェ、ゲス野郎ねえェ。野々宮よ。自分の彼女でしょ!」  マリアは缶コーラを飲みながらクレームをつけた。 「ふざけんな。真夜中にワケのわからないことを言ってないで。そのピザはくれてやる。さっさと出ていけ。警察を呼ぶぞ!」  こうなれば実力行使だ。  二人とも力尽くで追い出してやろうか。 「いやいや、わざわざ呼ばなくてもすぐに警察なら来ますよ。あなたを逮捕しにねえェ」  しかしシンゴは笑みを浮かべ余裕綽々だ。 「な、なにを!」逮捕しにだと。 「『神の見えざる手』ですよ。どんなに巧妙に計画しても所詮、神の前ではボクたちなど無力な存在ですから」 「な、なにを言ってるんだ。野々上(ののうえ)サラなんて女性は知らないって言ってるだろう」 「野々宮沙羅よ。四年も付き合ったんですから間違わないでよ」  マリアは不満げに口を尖らせた。 「く、くどいな。知らないって言ってるだろう」  なんと言われてもここで引くワケにはいかない。  どうせハッタリなんだ。
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