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神の見えざる手(海野次生 version)
「ハッハハッ、出来るものならやってみろ」
出来るはずはない。オレは高らかにあざ笑った。
「ずい分、自信満々だが言ったはずだ!」
「何がだよ」
「『神の見えざる手』の前にはボクたちは無力だってねえェ」
「だから何なんだ。さっきから『神の見えざる手』って?」
ワケのわからない弁護士だ。
「本来は経済学の言葉ですが、ボクは語感が良いので使ってます。いわゆる人智の及ばない奇跡ですよ。あなたは運の良いヒトだ」
「なにィ、運が良い?」
お前らに付きまとわれている限り運が良いワケがない。
「先ほど野々宮沙羅さんは病院へ搬送されて意識を取り戻しました」
シンゴは笑みを浮かべた。
「な、なんだって?」
そんなはずはない。だって。
だって。だって。
オレの頭の中はパニック状態だ。
「あなたは今カノと付き合い始めて元カノが邪魔になり、岬の崖から突き落としたんですね!」
「そんなことは妄想だ。オレは知らない」
「バックレんなよ。真犯人はあなたに決定!」
またマリアはまるでアイドルのようにダンスを舞いオレを指差した。
「ぬうゥ、証拠もなしによくもぬけぬけと」
もう我慢出来ない。
「ですから証拠なら野々宮沙羅に確認されますか?」
「うッ、沙羅に?」
どうやってだ。
絶対に無理だ。
このオレの手で沙羅は海の藻屑になったんだ。
「ではご覧なさい。野々宮沙羅さんを」
マリアはスマホを提示した。
そこには救急医療室に搬送された沙羅が映っていた。
頭には包帯が巻かれているが、生きていることは確認できる。
「あッ!」
そんなバカな。どうして彼女が。
地面がグラグラして立っていられない。
とっさにオレは玄関の壁にもたれた。
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