海野

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海野

 なんとかお嬢様は守ったものの代償は高くついた。  仲裁に入ったがケンカ慣れしている半グレ集団と売れないホストでは雲泥の差だ。  あっという間にボコボコにされ、気づくと病院のベッドの上だった。  なんとか売り物の顔だけはガードしたようだが、アバラが折れ全治一ヶ月の重傷だ。 「ああァ、カッコつけずにスルーしていれば良かった」  ベッドの上でひとり(ごと)をつぶやいた。  後悔さきに立たずだ。  もちろんこんな怪我ではホストの仕事もできない。恥ずかしいが貯金なんて微々たるモノだ。  半グレ集団は逃げてしまったので治療費さえままならない。 「どうしよう。まったくツイていない」  オレはベッドに寝転んで病室の白い天井を見上げて嘆いた。    だがその窮地を救ってくれたのが麗香お嬢様だ。  毎日、看病に訪れて二人の仲は急速に近づいた。  治療費や入院中の生活などいっさい賄ってくれた。    美人で優しくオレにとってまさに女神だ。    外泊が許された日、オレは彼女の部屋で一夜を明かし、逆にプロポーズをされた。 「ねえェ、次生さん。今度、パパに会ってくれる?」 「え、オレが」千載一遇のチャンスだ。  学歴もコネもないオレにとって願ってもない幸運が訪れた。  怪我をした甲斐(カイ)があったと言うものだ。  しかしひとつだけ懸念があった。  腐れ縁の野々宮沙羅だ。  彼女と付き合い始めてすでに四年が経った。  数百万の借りもある。  借金は西園寺麗香から借りればなんとかなるだろうが、それだけでは済まない。  沙羅を捨てればきっと痛いしっぺ返しがあるだろう。  なんとかしなければならない。  考えた結果、口を(つぐ)んで貰うことにした。  永遠に。
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