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「くっ、あは、あはは……」
わたしが涙をボロボロと流していると、何がおかしかったのか、先輩は突然笑い出した。
わたしは首を傾げる。
「くく、ありがと」
その朗らかな笑みに、更にわたしは折れんばかりに首を傾げた。
ありがとう、何に?
どこかスッキリとした表情の先輩は、ベンチから立ち上がると、固まっているわたしを尻目に地面に寝転がるギターを拾い、砂を払った。
「あーあ、砂入っちゃったかも」
ベンチに座ると、先輩はギターを膝に乗せて構えた。隣をぽんと叩いて、わたしにも座るように促した。何が何やら分からないわたしは、何も言わずに従う。
先輩がしゃららんとギターを一度鳴らす。
「一緒に歌ってくれる?」
「……はいっ」
先輩が馬鹿みたいに明るいラブソングを、これまた馬鹿みたいに明るく声を張り上げて歌ったので、わたしも負けじと声を張り上げた。
もう先輩に孤高なんて雰囲気は少しも感じなくなった。でも、それも悪くない。歯を見せて笑う先輩を見ていると、そう思う。
「昨日、振られちゃってさ」ふいに先輩が呟く「ちょっと落ち込んでた。でも、麻有里のお陰で元気出たよ。慰めてくれたんでしょ。ありがと」
慰め、か。
半分は違うんだけどな。
まあ、良いか。今はそれでも。
遠くから、パトカーのサイレンが近づいて来ているのが聞こえた。もしかしたら、うるさくて近所の誰かが通報したのかもしれない。怒られるかな。
でも、そんなことどうでもいい。
構わず、わたしたちは歌い続けた。夜の闇を照らすように、馬鹿みたいに。
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