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1.
わたしは夜の散歩が好きだ。
日付が変わるか変わらないかの時間に、宛てもなく近所をフラフラと歩く。
この辺りが郊外だからか、お昼とは違って、ほとんど誰ともすれ違わない。音だって遠くの大通りから聞こえる車のエンジン音くらい。
そんな淋しい街を歩いていると、まるでわたしだけが世界から切り離されたような錯覚を感じて、背中がゾワゾワと粟立つ。
きっと、クラスのみんなに話しても、誰も理解してくれない独特の感覚。秘密の顔。
その感覚が好きで、わたしは毎夜の如く、自分だけの世界に酔いしれながら彷徨い歩く。
そんなわたしだけの世界で、かすかに音が聞こえた。立ち止まって、そっと耳を傾けてみる。
なんだろう。周りの家から聞こえる生活に満ち満ちた音とは違う音、たぶん、ギター、かな? 楽器には詳しくないからよく分からないけど。
聞こえてくる音に合わせて鼻歌を口ずさみながら、音の出どころを探してみる。熱に浮かされたみたいにぼんやりとした頭で。ふらりふらり。
近づいているのか、音楽に歌声が混じり始めた。たぶん、女の人。甘ったるいのに、どこか淋しげで、わたしだけしか存在しない夜によく似合う歌声。
ここ、かな?
辿り着いたのは、住宅街からは外れたところにある小ぢんまりとした公園。その端っこにあるベンチに座る人影が見えた。覗きをしているようなやましい気持ちになってしまい、わたしは咄嗟に公園の生け垣に隠れる。
街灯というスポットライトに照らされ、ギターを爪弾きながら歌う女の人はどこか神秘的で、写真になんてちっとも興味ないわたしにも、この光景は映える。もしSNSに投稿すればバズるに違いない! と思わせた。SNSやってないんだけど。
ただ、歌ってるのが流行りのありきたりなラブソングなんかじゃなくて、わたしの知らない、そう、例えば英語の歌ならもっと格好良かったのに。少し残念。
「かっこいい……」
思わずうっとりと声に出てしまっていたのに気がついて、慌てて口を閉じた。
「誰?」
夜の空気によく通る澄んだ声。
女の人は人一人くらいなら殺せそうな鋭い目つきで、じっとこちらを睨みつけてくる。
しばしの沈黙。視線は外してくれない。
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