4.

3/3
前へ
/10ページ
次へ
「くっ、あは、あはは……」  わたしが涙をボロボロと流していると、何がおかしかったのか、先輩は突然笑い出した。  わたしは首を傾げる。 「くく、ありがと」  その朗らかな笑みに、更にわたしは折れんばかりに首を傾げた。 ありがとう、何に?  どこかスッキリとした表情の先輩は、ベンチから立ち上がると、固まっているわたしを尻目に地面に寝転がるギターを拾い、砂を払った。 「あーあ、砂入っちゃったかも」  ベンチに座ると、先輩はギターを膝に乗せて構えた。隣をぽんと叩いて、わたしにも座るように促した。何が何やら分からないわたしは、何も言わずに従う。  先輩がしゃららんとギターを一度鳴らす。 「一緒に歌ってくれる?」 「……はいっ」  先輩が馬鹿みたいに明るいラブソングを、これまた馬鹿みたいに明るく声を張り上げて歌ったので、わたしも負けじと声を張り上げた。  もう先輩に孤高なんて雰囲気は少しも感じなくなった。でも、それも悪くない。歯を見せて笑う先輩を見ていると、そう思う。 「昨日、振られちゃってさ」ふいに先輩が呟く「ちょっと落ち込んでた。でも、麻有里のお陰で元気出たよ。慰めてくれたんでしょ。ありがと」  慰め、か。  半分は違うんだけどな。  まあ、良いか。今はそれでも。  遠くから、パトカーのサイレンが近づいて来ているのが聞こえた。もしかしたら、うるさくて近所の誰かが通報したのかもしれない。怒られるかな。  でも、そんなことどうでもいい。  構わず、わたしたちは歌い続けた。夜の闇を照らすように、馬鹿みたいに。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加