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君に歌う。
「一緒に 見上げた星空ぁ~」
あはは。
歌うと、ずっと不思議そうに見てるよね。
声を絞って、柔らかい髪の毛とほっぺたの涙の跡に顔を寄せる。甘いミルクの薫りに、胸の奥に温かさが広がっていく。
「制服が かすかに触れあう感触ぅ」
ノリのいい曲はゆっくりめに、話しかけるように。バラードは目を見ながら、子守唄のように。
ゆっくり歌うと、声の振動が伝わってる感じがして好き。こうやって大人しく聞いてくれてるのも、そんな安心感があるからかもしれないね。
思いつくまま片っ端から歌う、週に一度の君だけに贈るワンマンライブ。いやいや、お姉ちゃんにも見せられません。ノリノリすぎて恥ずかしくて。
「あの日みたいな夜の麓ぉ」
今日はどう?
ご意見、ご希望は受け付けます。
あ、でも目が少し、とろーんってしてきたね。
そしたら、お姉ちゃんたちが帰ってくるまで、一緒に寝よっか。
「君は あの夜をぉ 覚え……てぇ、いますか? どこかで見上げて んんんんー」
しまった。
歌詞、忘れた。
●
ウトウトしてたらスマホの振動で目が覚めた。あ、お姉ちゃんからのLINE。
” 佐那、ごめんね。悠千花ムズがってない? ”
” だいじょぶ。私によっかかって、太ももに乗っかって爆睡してる ”
” ありがとね ”
いいよ、の代わりに笑った猫のスタンプをポチる。高志さんと一緒に、美味しいもの食べてくるといいよ。
また無理しすぎて倒れたら許さんからね。その時は悠千花を私の妹にしてやる、イシシシ。
” 太もも、柔らかそうだもんね。いいなあ ”
” 姉。そこの姉。私にデブと言いましたか ”
” ホメたんだよ? 何かあったらすぐに電話してね。すぐに帰るから ”
” 姉の言葉に困りました ”
” ありゃりゃ、ごめん ”
返事の代わりに、ちゃぶ台返しのスタンプをポチる。手を合わせた犬のスタンプが返ってきた。全くもう。
でもさ。
私が好きでやってるんだし、私も悠千花が大好きだから気にしなくていいんだよ。
だから、無理はもう絶対にダメだからね?
●
びっくりするくらい小さい指を握りしめて、悠千花は今、どんな夢を見てるんだろう。
きっと、優しい夢。
安心しきった顔で寝てるもん。
高志さんの笑顔とか、お姉ちゃんの温もりとかに包まれて、ポカポカのお日様の光に照らされてる。
そんな幸せで嬉しい夢を見てるといいな。
「うぅ~……」
んむ、起きるかな? 赤ちゃんは泣くのが仕事。オムツもミルクも準備OK、どんと来い!
ふわふわの髪の毛をそっと撫でる。制服の袖を掴まれて、悠千花の体に腕を添えた。
「…………。」
お姫様はまた、おねむしたようです。
たまには私のことも、夢で見てくれてると嬉しいな。
私が歌う歌の、言葉の意味がわからなくても。悠千花がどんな気持ちで私の歌を聞いて、何を思ってるかわからなくても。
私達は、一緒に優しい時間を過ごしてると信じてる。
大きくなったら、一緒に歌ってくれる?
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