プロローグ

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 じわりとその画面を覗き込んで、気分転換になにか曲でも聴こうとそこに指を走らせる。  ふと見ると、窓の外では朱色の余韻を空いっぱいに残す夕日が、秋の訪れを感じさせる抜けるような青空をゆっくりと染め始めていた。  普段なら、一番落ち着ける瞬間。  それなのに今日の僕は、やはりなぜかなんとも落ち着かずにいる。  なんだろう。  なんとなく目の奥がチクチクと痛んで、不快極まりないモヤモヤが胸を掻き乱す。  ふと、なにか目に入っているのかと思って、僕はスマートフォンを顔の前にかざすと、カメラを自撮りモードに切り替えて画面に自分の顔を映した。  白いスマートフォンの画面いっぱいに映った僕の左目。  相変わらずの、悪い目つき。  この目は、日ごろの無表情さや物言いと相まって、著しく僕の印象を悪くしている。  左手の人差し指で左目の(まぶた)を上げながら、さらに画面を近づけて覗き込んだ。  ゴミは入っていない。  ではこのチクチク感はなんなんだろうと思いながら、ゆっくりとスマートフォンの角度を変えた瞬間――。  不意に背中にぞわりと走った悪寒。  なにかが居る。
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