プロローグ

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『ええ? 帰れって言われても、えっと、その……、帰り方がよく分からないかも』 「なんだって? 自分で来たんだから帰り方も分かるはずだろ」 『えっとー』  桜台の間抜けな返事。  そのなんとも要領を得ずに宙を仰いでいる顔は、どう見ても幽霊って感じじゃない。  そう思った途端、なぜか急に肩の力が抜けた。  そうか。  これは夢だな。  今日はいろいろあって疲れたから、僕は帰宅早々ベッドに倒れ込んで寝てしまったんだ。  しかしよりによって桜台が夢に出て来るなんて。  まぁ、桜台風子はいつもこんな調子だ。  コイツとは高校一年のとき同じクラスで初めて会って、なんの因果か二年生も同じクラスになってしまった。  第一印象は最悪。  無神経に誰とでも節操なくフランクに話す、たぶん僕が一番嫌いなタイプの女だ。  だいたい『風子』って名前はなんだ。  苗字とあわせて『桜台風子』って繋がると、なんか途中の『台風』が目立って見えてきて『台風女』なんて別名で呼んでみたくなる。まぁ、実際に台風みたいなヤツなんだが。  それに、あの笑顔も気に入らない。
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