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今日はいろいろあって疲れたからな。
桜台が階段から落ちて病院へ運ばれたり、そのせいで職員室へ呼ばれたり。
『あのー、永岡? あ、あたしさぁ』
あら、まだ夢が続いている。
またスマートフォンを覗き込むと、桜台にしては珍しく力無さげに僕の肩に手を掛けて、ちょっと上目遣いでなにかを懇願するような瞳をこちらへ向けていた。
「この夢はもうおしまい。聞かないよ」
『あのう』
ピンポーン。
彼女がそう言い掛けたとき不意に鳴ったのは、玄関チャイムの無味な電子音。
『あ、お客さん』
「なんか、ずいぶん現実味のある夢だな」
あまりにも夢らしくない夢に当惑しつつ、僕は制服シャツの胸のポケットにスマートフォンを無造作に押し込んで、すぐに階段を下りてリビングに向かった。
キッチンカウンター横の壁に取り付けられた、モニター付きインターフォンの受話器を手に取る。
「はい。どちら様でしょうか」
玄関先を映した小さなモニター画面には、グレーのパンツスーツ姿の若い女性と、紺色背広姿の若い男性が映っていた。
どちらも初めて見る顔だ。
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