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05.みんなで決めたわけじゃない
「ちょっと待ってよ。歌うのが苦手な人にまで無理やり大きな声で歌わせることないんじゃないかな」
その声の持ち主は平岩悠平だった。
「平岩くん。これは合唱なんだから、みんなが心をひとつに合わせて、一生懸命に歌うことに意味があるの」
合唱部の副部長でもある佐保は、怒ったような顔と声で反論する。
「そうだけど、誰だって得意不得意があるんだよ。苦手なものや不得意なものを無理やりさせることもないだろう? 逆に聞くけど、武藤さんには苦手なことや不得意なことはないの?」
「わたしだって苦手なことはあるけど。家庭科とか……」
「僕だって苦手なもの、不得意なものはいっぱいある。英語だってそう。僕が英語のスピーチコンテストでネイティブ並みにしゃべって優勝するのは無理。でも、定期テスト向けの勉強は、クラスの平均点をひどく下げない程度にはできる」
悠平の言葉に佐保はなにか言いたそうだけど、無言のまま。
「だから、石垣さんだって学年のトップを目指して無理して練習しなくても歌わなくてもいいと思うんだよね。少なくとも平均点を下げない程度にみんなと一緒に歌ってればいい」
悠平の言葉に他の生徒からも「そうだよな」という声が上がる。
「わたしはこのクラスで優勝したいの。合唱部の副部長がコンクールのリーダーを務めてるクラスがいい成績取れないなんて」
悠平にそう反論する佐保。悠平は少し考えてこたえる。
「そもそも、合唱コンクールで優勝するなんて目標自体、武藤さんの都合でしかない。今度の合唱コンクール、うちのクラスは優勝しようなんて目標をみんなで決めたわけじゃないからね」
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