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11.その笑い声につられて
柚月はいつもの神社の裏手に佐保を連れて行った。
「なんでわざわざこんな場所に?」
佐保は薄暗さをたたえた雑木林の寂しい風景を見まわす。
「私、実は人前じゃ声を出して歌わないことにしてるの」
柚月は思い詰めた表情で切り出す。
「実は私、歌で動物と会話できるの。私が歌うと動物たちが引き寄せられて、そして私と話が……」
けれど、柚月の話が終わらないうちに佐保は笑い出してしまう。どうしてもこらえきれないように。
「ごめん。動物と話ができるって、そんな話……」
佐保は指で涙を拭きながら、まだ笑っている。
「簡単に信じられないのはわかる。でもこの前、武藤さんに言われて一人で歌ったら、カラスやネズミが出てきたでしょ」
「そう言われてみれば、窓の外にカラスがいっぱい飛んできてうるさかったし、ネズミが何匹も出てきたことがあったね」
そう言いながらも、佐保はまだ柚月の言葉に半信半疑の表情。
「じゃあ、見てて」
柚月は雑木林に向かって歌い出す。口パクではなく、自分の声で。その歌声は神社の裏手から雑木林の中を流れてゆく。けれど、どれだけ歌っても、一羽の鳥も飛んでこない。
「おかしいな。いつもならルナがすぐに出てくるんだけど……」
困惑する柚月のそばで、ふたたび佐保がこらえきれないというふうに笑い出した。
「石垣さんって意外と子どもみたいなこと、本気で信じてるのね」
「違うの。子どもみたいなことじゃなくって……」
柚月の言葉をさえぎり、笑いすぎて涙を拭く佐保が告げる。
「たしかに石垣さんの歌は上手いわけじゃないけど、それほど下手だとは思わない。自信持って大きな声で歌っていいから」
「違うの、そういうことじゃなくて……」
佐保の笑い声が神社の裏手に響き続けた。その笑い声につられて、柚月も同じように笑い出した。
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