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03.図星だった
「同じクラスの武藤さんが、どうしても声を出して歌えって言うから……」
神社の裏手で柚月は目の前にいる猫に小さな声で歌う。
「それでカラスが集まってきて、ネズミが出てきたってわけね」
猫のルナが言った。やっぱり歌うような鳴き声で。
「ルナならネズミが出てくれば大歓迎でしょ?」
柚月がそう歌った。ルナは首をかしげる。
「どうだろう。わたしはネズミなんて取ったこともないし食べたこともない。あまり見たこともないから」
「ルナはネズミを追いかけまわすようなタイプの猫じゃないよね」
柚月はそう歌いながらかわいらしい模様の首輪をしたルナの頭を撫でる。ルナは気持ちよさそうに体をすり寄せ、小さく鳴く。
「ずっと飼い猫だからね」
ルナがそう言ったとき、頭上から甲高い鳴き声が響く。歌うように啼く鳥の声。
「なあ、お前は14歳だろ。いつまで動物と話せる能力を持ってるのかって話なんだよ。そんな能力、もうとっくの昔に消えていてもおかしくない年齢だろう?」
柚月が顔を見上げて、神社の裏手に広がる雑木林に目を凝らす。枝にとまった一羽のヒヨドリが柚月とルナを見下ろしていた。柚月のはるか頭の上で。ルナに捕まらないように用心しているのだろう。
「歌で動物と会話できる能力なんてのは、人間は10歳くらいで自然に消えてしまうんだ。けど、お前はいまだにその能力を持っている。お前、本当に14歳なのか?」
ヒヨドリがあざけるように歌った。
「失礼ね。私はずっと動物と会話したいだけ。大人になってもね」
怒り混じりの声で歌う柚月。
「ふん、好きにするがいい。いつまでも子どもでいたいなら」
ヒヨドリはそう歌い残して飛び去っていった。
「なにあれ、ムカつく!」
柚月は腹立たしさを覚えながらルナにそう告げた。ヒヨドリの飛び去ったあとの空を見上げるルナは真剣な顔つき。風が吹き、木々が揺れ、ルナは柚月に顔を向ける。
「あのヒヨドリの言うことも正しいんだよ」
「ルナ……」
「歌で動物と会話できる能力って、人間では幼い子どもだけが持つものなの。大人になればその能力は消えるのは当たり前だよ」
柚月は納得できない表情でルナを見つめる。
「人間がいつまでもその能力を身につけていてはいけないの。だって柚月は人間なんだから、人間と関係をいっぱい持たなきゃいけない。柚月は人間の友達、多くないでしょ?」
図星だった。
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