08.もう少し大人になれば

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08.もう少し大人になれば

「生まれつき歌で動物と会話できた人間の子どもは、大人になるまでにほとんどがその能力を失う。人間だけが言葉を高度に発達させてしまったからな。他の動物たちと会話できなくなった人間の歌は人間のためだけの歌になった」 「じゃあ、私は14歳だけど、この能力もいつか消えてしまうの?」 「わからん」  ヒヨドリはあっさりとこたえた。 「ほんのわずかな人間だけが、大人になっても歌うことで動物と会話できる能力を持ち続けられると聞いたことがある。人間の世界で言えば、天才的な動物学者や獣医師になったりするようだ」 「じゃあ、私も……」  天才的な動物学者、と聞いて柚月はヒヨドリの話をもっと聞きたくなった。進路もそういうところを考えてもいいかもしれない。そんな考えさえも頭をよぎる。進路を考える年齢だから。 「いや。お前は単にまだ子どもなだけだ」  柚月は思わずムッとする。ヒヨドリはあざわらうように告げる。 「ほらな。本当のことを言われてすぐに怒るところなんか、本当にまだまだ子どもだぜ」  そう言い残して、ヒヨドリは空へと飛び立っていった。 「私はルナといつまでも会話したいと思ってる」  ヒヨドリのいなくなった空の下、木陰のルナに柚月が歌う。 「そう? でも、いつまでもそういうわけにはいかないのよ」  寝転んでいたルナは起き上がり、大きく伸びとあくびをする。 「大事なことをひとつ柚月に教えるよ。心を通じ合わせるのは、なにも言葉で会話することだけとは限らないの」 「どういうこと?」 「柚月ももう少し大人になればわかるよ」 「それは私がまだ子どもだってこと?」  ルナはうしろ脚で耳を掻きながら、柚月にこたえる。 「そうかもしれないね。柚月も14歳。本当なら動物と会話できる能力をとっくに失っていてもおかしくはない年齢だね」  ルナは歌うようにそう告げて、自分の家に帰って行った。
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