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「二人とも手、切らないでよ?」
「俺、ピーラーの達人なんで大丈夫っす」
「え? 涼介なに? ピーラーの達人って?」
「ん。見ろよ、俺のジャガイモの皮」
僕が左隣の涼介に言われて涼介の手元を見れば、ジャガイモの皮が漫画に出てくるようなリンゴの皮みたいに綺麗に繋がっている。
「うわっ、すご!」
「あら~、涼くんは見た目に寄らず手先が器用よね」
「美恵さん、褒めてんの? けなしてんの?」
「ふふふ、勿論褒めてるの。ねぇ、真央ちゃん」
僕は右隣で微笑んでいる母にむかって口を尖らせた。
「母さんいい加減、涼介の前ではちゃん付けやめてよ、恥ずかしいって」
「なによ今更」
「だな。別に俺も真央ちゃんって呼んでやってもいいけど」
「涼介!」
二人の明るい笑い声が僕の心の中に小さな幸せとなって降り注ぐ。
(このかんじ……いいな)
(ずっと……続けばいいのに)
でも半年後、涼介は東京に行く。自分の隣から涼介がいなくなってしまう現実がもうカウントダウンに入っていることを告げるように僕の胸はズキンと痛んだ。
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