呼吸のできない僕たちは

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冗談かと思って涼介の顔を見たが涼介は不貞腐れたように唇を尖らせている。 「なんだよ。中学まで一緒に入ってたじゃん」 「そ、それは中学んときの話じゃん?!」 「男子高校生は二人で風呂入っちゃダメなわけ?」 「な、なんでそういう話になんだよっ」 涼介は目の前の僕のことを気にも留めずTシャツもハーフパンツもあっという間にぽいと脱ぎ捨てる。 「ちょ、待っ……っ」 「なに? 真央も早く脱げよ。それとも脱がしてやろっか?」 僕は戸惑っている僕をニヤニヤしながら見ている涼介をキッと睨みつけて見せるが、涼介はなんてことない顔で最後にボクサーパンツを脱ぎ捨てると浴室の扉をガラッと開けた。 「はやくこいよ。夏休み最後。それに多分最後の風呂かもだしな」 (多分? 最後?) そう言うと涼介はいたずらっ子のような笑みを僕に向けてから浴室扉を閉めた。 昔からだ。こういう強引で我儘な涼介の振る舞いは変わらない。脱衣所に残された僕は自身の黒髪をくしゃっと握った。 「……たく。最後とか言うなよ……」 ずっと当たり前にこれからも僕の隣には涼介がいるなんてことあり得ないのに、そうだったらいいなと思っていた自分は確かに存在していて、涼介と何かをすることが『最後になること』がこれから増えていくと思うと寂しさを感じられずにはいられない。 (あと半年でバラバラか……) 僕は勉強はできる方で、夏が終われば指定校推薦で地元の私立大学の経済学部に進学するつもりだ。夏休み入って僕がそのことを美恵に伝えたとき、母は拍手をして喜んでくれた。 (いいんだよな。これで) 僕は棚からバスタオルをもう一つ取りだすと服を脱ぎ、涼介の待つ浴室の扉を開けた。
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