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「おっそ」
「ごめん、もう洗った?」
「このとおり」
「はや」
「どうも」
涼介は濡髪の水滴を雑に手のひらで払うと湯船の端に肩ひじをついたまま天井を見上げた。僕は身体をお湯で流すと、涼介が開けてくれた湯船のスペースに三角座りした。
「変わんねぇな。その浸かり方てか座り方」
「え? 浸かり方? そんなんあるの?」
「あるだろ、真央って気づいてないかもだけど何でも三角座りするよな」
「ん? そうかなぁ……自分ではあんま意識してなかったけど……それよりもさ。狭いよね」
「あはは、だな」
涼介と一緒に入るのはかなり久しぶりだがお互いの身体はちゃんと大きくなっているようで狭い湯船は男子高校生二人はいるとどうしても身体のあちこちが触れあってしまう。
(身体だけ大きくなっても、心はずっとおんなじだ……)
結局、誰にも言えない秘密と誰にも理解されがたい趣味によって自分という存在は過去にも未来にも行けずにその場にずっと立ちすくんでるような気になってしまう。僕は両手で湯船のお湯を掬うと、雑念を振り払うように顔をバシャバシャと洗った。
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