呼吸のできない僕たちは

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「綺麗に洗えたじゃん」 「なにそれ。この状況でほかに言うことないの?」 涼介のいつもの揶揄いに視線を上げれば、涼介の首筋から上腕筋二頭筋まで雫が垂れていくのが見えて僕の心臓がきゅっとなった。 そして僕はなぜだか涼介の身体を直視できなくて向かい合って使っている湯船の中で、顔だけ洗い場の方に向けた。 理由は分からないが僕の顔は火が出たように熱い。それに気づいてるはずの涼介は何も言わないから余計に恥ずかしくなってくる。数分の無言のあと、静かに言葉を吐きだしたのは涼介の方だった。 「──真央、痕残ったな」 「え?」 ふいに涼介から発せられた言葉に一瞬理解が追い付かなかったが、涼介の視線が向けられているのは僕の右太ももの付け根あたりにある火傷の痕だ。 中学生の時、母がたまたま仕事が遅くなり、僕と涼介は二人でラーメンを作ったことがあった。ほうれん草と卵を乗っけて仕上がりは上々。そしていざ食べようと涼介が鍋からラーメン鉢によそう際、スープをこぼしてしまい、それが僕の太ももにかかってしまったのだ。 「……俺のせいで一生消えない痕ついたなって」 十円玉くらいのケロイドの痕に切れ長の目を向けながら涼介が苦笑いする。 (そうか。そういうことか) 僕は両の掌で水鉄砲の形を作ると涼介に向かって勢いよく水を掛けた。 「わっ……! なんだよっ!」 「あはは。涼介って変なとこ気にするよね。僕にとってこの火傷見るたび、涼介と食べたあのラーメン美味しかったなって」 「……お前な」
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