呼吸のできない僕たちは

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僕はエコバックから僅かに見えていたその角をエコバックで覆い直した。  ──「てか小春こそ、そのリップってKOSSEの新作だよね?」 ──「さすが初音、アタシも初音に勧められて見たマオマオの写真でつい欲しくなっちゃって……」 ──「マオマオのメイクってコスパ最強で可愛いよねー」 二人の女子たちは仲良くおしゃべりに花を咲かせながら横断歩道を渡り切ると、今からショッピングモールにでもいくのかバス停に並ぶのが見えた。 (マジか……、まさか二人がマオマオのSNSを見てただなんて) 僕は走り出した車から数秒遅れてまたペダルを漕ぎ始める。何だかさっきよりもペダルが重く感じるのは何故だろうか。 (夏休みも明日までか……アレもまた暫くは週末しかできなくなるな) 僕は晴れ渡り雲一つない青空に不似合いなため息を吐きかけると、大通りから脇道に入り、公園の遊歩道へと入っていく。八月下旬の昼間だけあって歩いている人は見当たらない。 遊歩道は木々のお陰で木陰が多い。僕は長めのマッシュヘアの黒髪を風に靡かせながら思い切り深呼吸を繰り返す。心の中のモヤを排出して新鮮な空気を胸いっぱい吸い込めば、自分の他人に見られたくない黒いものが少しだけ浄化されて呼吸がしやすくなってくる。 僕は僕がいま繰り返している日常に何の不満もない。人間関係もそれなりにうまくやっていて高校生活も満喫している方だろう。 でもいつだって呼吸がしづらい。うまく呼吸ができないときがしばしば訪れてその時間がが雪のように僕の心の中に積もって棲みついていつしか、ちゃんとした呼吸の仕方を忘れてしまったように思う。 (いつまでこんな気持ち抱えて……いつまで隠してればいいんだろう) いつまで?そんな期限は一生訪れないのかもしれないと思うと僕の心はぐっと締め付けられる。
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