呼吸のできない僕たちは

3/39
62人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「やめやめ」 僕は自身の髪を突き抜けて撫でていく風に余計なモノを乗せて託してしまうかのように軽く頭を振った。 「気持ちー……」 そして僕は視線を上に上げ、青々と葉を茂らせる木々に目を細めると自転車を漕ぐスピードを緩めた。僕は植物にいたって興味なんてない。僕が思わず目を細めたのはその瑞々しい葉の色のせいだ。 「お。今年のトレンドカラーの中にライムグリーン入ってたよな」 今年の春・夏トレンドカラーは「ピーチファズ」「バターイエロー」「ライムグリーン」「スターホワイト」の四つ。トレンドカラーは美容業界やファッション業界など様々な分野で存在するのだが、僕の一番の興味は美容業界だ。ちなみにメイクの今年のトレンドカラーはブルー。 僕がその辺の男子高校生とは比べ物にならないくらいメイクに興味を持っていることは、母親及び幼馴染のアイツでさえも知らない。 公園を抜け、緩い坂道とたち漕ぎで登り切れば母親の美恵と二人で暮らしている築三十年の日本家屋が見える。駅からは自転車で二十分と距離があるためその分家賃は格安で、少し小高い場所にある為、景色も空気もちょっといいのが僕は気に入っていた。 「到着っと」 僕は裏庭へ続く扉を開けると母がせっせと手入れしている花壇の向日葵を見ながら、いつものように自転車を停めた。向日葵はすでに旬の時期を終え、花びらが下を向き始めている。 「今年はちゃんと種とれるといいけど」 昨年花が咲き終わった後の水やりが足らなかったようで、種が十分に育たなかったことを美恵が愚痴っていた。 僕はあまり向日葵が好きじゃない。と言うよりも向日葵の終わりかけが好きじゃない。俯いた向日葵の姿が僕自身に重なるから。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!