呼吸のできない僕たちは

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「まずは洗顔シートで汗拭いて、化粧水で整えてっと」  僕は慣れて手つきで下地を顔に塗るとパウダーファンデーションで肌の色を整える。そして鼻筋にハイライトをいれてから柔らかい曲線でアイブロウを施す。指の腹で優しく細かいラメがはいったホワイトブルーのアイシャドウを瞼全体に乗せてから茶色のアイライナーでまつ毛ギリギリにラインを引く。 「ふう……もうちょい。ここでこの間買ったグリーンの出番だな」 僕は雑誌を元にメイクをしていくが、完コピはオリジナリティが皆無で面白くない。 「ブルーとグリーン使ってのメイクは僕が初めてかも」 そう言うと僕はとろみがかった淡いグリーンを二重の三分の二ほどに色づけると指の腹で優しく先ほど塗ったホワイトブルーのアイシャドウとなじませていく。最後にダークブラウンのマスカラをまつ毛に塗り、リップライナーを使って淡いピーチファズ色の口紅を唇にのせた僕は、つい二十分ほど前の自分とすっかり変貌を遂げた自身の顔に両目をキラキラとさせた。 「うわ、めっちゃいいじゃん。目元の透け感ばっちし」 僕はスマホを床から拾い上げると、パシャパシャと自撮りをしてすぐに自身が半年ほど前から始めたSNSサイトへ投稿する。 ──アカウント名は【マオマオ】。 プロフィール欄には現役男子高校生十八歳。メイクが趣味で秘密です。 たったそれだけを記載していて、あとはひたすら百均やプチプラのコスメを使ってトレンドのメイクを自己流で施したものを投稿していく僕の誰にも内緒で唯一の趣味の発表の場だ。 いつもは週末、母親がいない隙を狙って投稿しているが夏休みとあって今月の投稿はすでにいつもの五倍は投稿してしまっている。 僕は身バレしないようにスマホの機能で髪色を変え、写真を撮る角度も真正面は避けている。 「あ、あぶな。忘れてた」
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