呼吸のできない僕たちは

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僕が十歳の頃に離婚してから女手一つで育ててきた母には死ぬまで言えそうもない。そして、僕の唯一の親友と呼べる幼馴染の大切なアイツにも。 だからこうやって隠れて趣味を楽しむことにどこか罪悪感は拭えない。 「悪い事してるわけじゃないけどさ……」 僕はメイク道具を紺色のフリルのついたメイクボックスにすべて仕舞うと、やっぱりため息を一つ吐き出した。いつもそうだ。メイクをして気分が高揚して心が弾んで、メイクを取ると見慣れた素顔に空しさのような空っぽの感情がこみ上げてくる。 (この気持ちって何て言うんだろうな……) その時だった──階下から母の呼ぶ声が聞こえてくる。 「真央ちゃーん、涼くん来たわよ~」 (えっ!!) 僕が慌ててメイク道具をクローゼットに押し込むのと、自室の扉が開くのがほぼ同時だった。 「おっす真央」 「りょ、涼介……」 突如として現れた幼馴染の松田涼介を見て僕は思わず声が上ずった。秘密がバレそうになったのもあるが、涼介の髪色が茶髪からド派手なピンク色になっていたからだ。 「その髪」 「いいだろ、昨日染めた」 涼介が黒いTシャツにカーキ色ののハーフパンツ姿で僕のの自室に入って来ると、あっという間にベッドに腰かけた。 「あれ、涼介来るのって明日じゃ」 「ああ。ちょっと予定っていうかさー、親父と喧嘩したから逃げてきた」 「えっ、逃げてきたって。もしかして昨日LINEくれた進路のことで喧嘩したの?」 「まあな」 涼介は短いピンク色の髪をガシガシ掻くと、「マジでだりぃ」と言ってそのままボスンと僕のベッドに背中を預けた。涼介の耳には片耳に約十個ずつピアスの穴が開けてあるのだが、右耳の軟骨あたりに一週間前会ったときはなかったピアスがひとつ増えている。 (涼介のピアスまた増えてる……)
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