呼吸のできない僕たちは

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涼介は僕とは逆の父子家庭で育っていて、建設現場で働く父親とはあまりそりが合わないことを僕は知っている。 僕が離婚を機に母親とこの地に移り住んでたまたま斜め向かいの家が涼介の自宅だったということもあって、僕は同い年の涼介とすぐに打ち解けた。 僕にとって涼介との出会いはこの世で唯一神様に感謝すべきことだ。 母さんが離婚しなかったら。 この地に引っ越してこなかったら。 この世はたらればの連続で成り立っているが、涼介との出会いだけは必然だったと言えるほどに、僕にとって涼介は特別だった。 今通っている自転車でここから十分の公立高校も涼介と同じで今年は同じクラスだ。 僕の隣にはいつだって涼介がいて気の置けない兄弟のような関係に僕は心から居心地よく感じていた。 ただ一つだけ、涼介に嫌われたくなくて、あのことが言えないことだけがずっと僕は苦しい。 「涼介、喧嘩って深刻な感じなの?」 「まぁまぁかな」 そう答えた涼介の口元を見て僕は自身の二重の目を少し大きく開いた。 「あ、れ。唇のピアス……」 「うん。なんかスカッとしたいから先週バイト代でて速攻開けてきた。ついでに右耳も追加」 「そう、なんだ」 「いっつも耳ばっかでさ。そろそろ開けるとこねーの」 ははっと涼介が笑って、唇についているフープタイプのピアスがかすかに揺れるのを見ながら僕は表情を曇らせた。 (ピアス増やすときって……涼介が強いストレスを感じてるとき、だよね……) はっきりと本人に聞いたわけでも確認したわけでもない。 でも僕にはわかるのだ。それだけ長い時間を僕らは共にしてきているのもあるし涼介の夢を知っているから──バンドマンを目指してる涼介がずっと高校を卒業したら東京に行きたがっていること。父親からは自分の働く建設会社で一緒に働けと言われていること。 (僕に出来ることがあればいいのに……)
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