荒野に延びるレール

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 ゴールデンウィーク、龍太郎(りゅうたろう)は北海道の荒野を走っていた。龍太郎は以前から、北海道をドライブしてみたいと思っていた。今年は長いゴールデンウィークが取れたので、それを利用して、北海道に行く事にした。北海道は広いが、人口が希薄な所が多い。かつては開拓者によって多くの集落ができた。だが、過疎化が進み、消滅してしまった集落が多くある。そこにはただ、荒野が広がるのみで、まるで元の自然に還っているようだ。 「もう夜も遅いな」  気が付くと、もう日は暮れている。目の前には家の明かりが全く見えない。どこに行けば、家の明かりが見えるんだろう。カーナビを見ると、この先には全く民家がないようだ。どうしてこんな所に道路があるんだろうか? かつてこの辺りにも集落があったんだろうか?  と、龍太郎は目の前に1つの光を見た。大草原の中にある家だろうか? 「あれっ、ここに何だろう」  龍太郎は目の前に停まった。よく見ると、簡易宿泊所と書いてある。こんな所に簡易宿泊所とは。需要があるんだろうか? 「簡易宿泊所? こんな何もない所に?」  もう夜も遅い。ここで泊めてもらおうかな?  龍太郎は簡易宿泊所に入った。簡易宿泊所は清潔で、掃除が行き届いているようだ。 「すいませーん」 「はーい!」  女性の声だ。どうやら簡易宿泊所のオーナーのようだ。 「ここは簡易宿泊所ですか?」 「はい」  やっぱり簡易宿泊所のようだ。今日はここで泊めてもらおう。 「部屋、空いてますか?」 「はい! 1泊3000円です」  龍太郎は1000円札3枚を出した。 「1泊お願いします」 「ありがとうございます。こちらの部屋へお願いします」  女性は、部屋に案内した。ここの隣には平屋の建物があり、そこが宿のようだ。この小さな建物は、事務所のようだ。  龍太郎は案内された部屋に入った。そこは2段ベッドが並ぶ部屋で、宿泊者はここに泊まる。部屋は他の人と共用で、すでに何人かの人が寝ている。 「どうしてこんな所にあるんだろう」  龍太郎はいまだに疑問に思っていた。どうしてこんな荒野に簡易宿泊所があるんだろう。  と、龍太郎はある物が目に入った。壁に掛けられている駅の写真だ。これは何だろう。見るからにローカル線のようだ。 「ん? これは?」 「これですか? この簡易宿泊所は昔、駅舎だったんですよ」  龍太郎は振り向いた。そこにはメガネをかけた男がいる。それを知っっているとは、まさか鉄道オタクだろうか? 「そうなの?」 「うん。ここは賑やかな町だったんですよ」  ここには幌股(ほろまた)という集落があって、林業で栄えたそうだ。全盛期の人口は数百人だった。だが、時代とともに過疎化が進み、現在ではここで簡易宿泊所を経営する女性1人のみになってしまった。ここを終点とする国鉄の路線も廃止になり、幌股は元の荒野に戻りつつある。 「そうなんですか?」 「はい。明日、見てみます?」 「ええ」  龍太郎は、明日の朝、廃線跡を見る事にした。何も予定がないから、ついでに見ていこうかな?  翌朝、ぐっすり眠っていた龍太郎は、宿泊者に起こされた。 「おはよう。見てみましょうか?」 「うん」  龍太郎は、眠たそうに眼をこすっている。  2人は簡易宿泊所の外に出た。そこには荒野があり、その下にはレールが延びている。だが、そのレールはもう何十年も使われておらず、赤さびている。 「ここにレールが延びてたんだ」 「そうなんだ」  宿泊者は辺りを見渡した。ここにはかつて、集落があった。もう荒野しかないけれど、確かにあったんだ。 「ここにはかつて、数百人が住んでいたんだ。だけど、過疎化が進んで、ここに駅舎だった簡易宿泊所があるぐらいなんだ」 「そんなに寂しくなったんだね」  龍太郎はここの栄枯盛衰を見て、都会に行く人々の事を考えた。みんな都会に行ってしまう。そして、山里は寂れてしまう。まるで東京とは正反対だ。亡くなろうとしている集落を、何とかして残せないだろうか? 「もうあの頃の栄光は戻ってこない。だけど、この簡易宿泊所は残り続ける限り、ここの記憶は残り続けるんだ」 「そうなんだ」  と、そこに簡易宿泊所のオーナーがやって来た。オーナーも荒野を見ている。 「どうしたんですか?」 「ここの昔の日々を説明してたんですよ」  それを聞いて、オーナーは笑みを浮かべた。昔の話を聞くのが好きなようだ。 「そうですか。見ます?」 「はい」  どうやら、この簡易宿泊所には、当時の写真があるようだ。見ておかないと。見て、何かを感じられるかもしれないから。  3人は事務所に入った。そこには、かつての幌股の写真がある。とても今の荒野からは想像がつかない。こんな日々があったんだ。そしてそこには、廃線になった国鉄の路線の写真もある。晩年は単行のディーゼルカーが走るだけの閑散路線になっていたそうだ。 「これが昔の幌股なんだね」 「信じられない」  2人とも、信じられない表情で見ていた。一方、オーナーは真剣な表情でそれらの写真を見ていた。 「あの頃は賑やかだったんですよ。でも今は・・・」 「もうあの頃の栄光は戻ってこない・・・」  オーナーは泣きそうになった。何度願っても、昔の栄光は戻ってこない。だけど、私は営業しなければ。ここにかつて、幌股という集落があり、多くの営みがあったんだという事を。
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