君に届け

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 目が覚めると夕方で学校祭はとっくに終わっていた。保健室には西日が入っていてオレンジ色に染まっている。ベッドの(かたわ)らには誠也が目を赤くして座っていた。  「待っていたの?」  「当たり前だろ……死んだらどうしようかと思った……」  「心配ないって言ったんだけどね。何を言っても離れないから」  保険医が苦笑を浮かべて口を挟んだ。アオトはじとりと誠也を見あげる。その視線に誠也がたじろいだ。  「ねぇ、届いた?」  「……そりゃ、もちろん」  「本当に?」  「ちゃんとクラスのみんなにも謝るつもりだ」  「ふぅん……」  誠也の顔が引き締まってアオトを真っ直ぐに見た。勢いよく頭を下げる。  「アオト、たくさん避けてごめん! 無理もさせた!」  初めて見る情けない顔で誠也は笑った。  「俺、自分が強いと思っていた。でも、親が離婚で、卒業まで今の学校にいられないって聞いて混乱した。不安になった。冷静じゃいられなくなった……アオトの歌はすっげー響いた。壊れていない世界があるって。本当に、ありがとう」  アオトはゆっくりと体を起こし泣きそうになるのを(こら)えて笑みを浮かべる。  「わかったなら、いいよ。許してあげる。もう、僕らを避けたらダメだよ」  「おう……約束する」  夕焼けの明かりの中で2人は指切りをした。  次の日、誠也はみんなに謝り、アオトは(ねぎら)われた。なんと学校祭でアオトの歌は特賞を取ったという。自作の曲ということで軽音部がスカウトを狙うと言っていたと聞きアオトは青ざめる。目立つのは金輪際嫌(こんりんざいいや)だ。  「アオト、良い声だからな」  「ありがとう。でも、嫌だからね」  「もったいないなぁ……」  アオトは名残惜(なごりお)しそうな周囲に背を向ける。隣に誠也が並ぶ。それだけで満足だった。
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