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悪女へ
婚カツパーティの終了後、都筑拓海から来週の日曜日にデートに誘われた。最初のデートはランチを食べに行くということになった。
パーティの帰りの電車で詩乃にカップル成立したこととデートの約束もしたことをラインで報告すると、よかったねというスタンプが送られてきた。続いて来たラインにはデートの服はどうするのとクエスチョンマークがついていた。今日のパーティで着た服でいくつもりと返すと、同じ服はダメ。すぐに新しい服を買いに行くか、自分の服を貸すからそれ着ていくかにしろとラインが返ってきた。詩乃から服を借りるのは気が引けたので、新しい服を買うと伝えた。
次の日に詩乃はすみれの服選びについてきてくれた。
「よし、これにしよ」
詩乃は前より派手で肌の露出の多い服を選んだ。この服を着ていくのは恥ずかしいと思ったが、詩乃の言う通りにした方がうまくいくのは間違いない。すみれは予算オーバーだったが詩乃の選んだ服を買った。
生まれてはじめてのデートは梅田の商業施設の最上階にある店でのランチだった。都筑のおすすめの店らしい。すみれは都筑といると落ち着いた時間を過ごせる気がしたが、さすがに初デートは緊張した。
都筑が「ここのランチは美味しいだろ」と言うが、味はほとんどわからなかった。ランチを済ませた後、都筑が少しブラブラしようというので、二人で梅田界隈をブラブラと歩いた。買い物するわけでもなかったが、気になるお店があれば店に入り店内を覗いて回った。その頃にはすみれの緊張もとれて会話が弾むようになった。すみれはいい人と出会えたことに感謝した。このまま都筑と付き合っていいと思ったが、詩乃からは止められている。男をすぐに信用しちゃダメ。もっとよく見ないとわからないから、しばらくは男友達として付き合って、その間にもっと他の男性も見ておいた方がいいと詩乃は言った。
初デートの帰りは都筑がすみれのマンションまで送ってくれた。マンションの前で別れる時に、都筑は結婚を前提にお付き合いしたいと言ってきた。すみれもまんざらでもなかったが、詩乃からは簡単に付き合ってはダメだと言われている。詩乃の忠告に従い、最初は友達からとすみれは言った。
都筑は「そりゃそうだね、会って一週間しか経ってないし、今日はじめてデートしただけだもんな」と言って頭を掻いた。
「ごめんなさい」
すみれは頭を下げた。
「謝らなくていいよ。けど、男友達としてだけど、婚カツパーティの時に僕を選んでくれたわけだから脈はあるってことだよね。断りにくくて、とりあえず男友達ならって言ってるわけじゃないよね」
都筑がじっとすみれの目を見た。
「うん。いきなり付き合うのは怖いから、最初は男友達としてからの方がいいの」
すみれはそう言った。詩乃に教えてもらったセリフだった。
「そうか。仕方ないな。僕は今すぐにでも君を抱きしめたい気分だけど、今は我慢するよ。でも、いつか」
都筑の視線は最初はすみれの目を見つめていたが、すぐに下がり胸元にいっていた。そこですみれは胸を突き出した。都筑がゴクリと生唾を飲み込む音がした。
「うん、いつかね」
すみれは右手を胸のあたりまで上げて、小さく手を振った。都筑はすみれの右手に手を合わせ「じゃあ、また」と言った。
そこで、都筑と別れた。都筑は名残惜しそうにすみれがマンションに入って行くのを見ていた。すみれは勝手に頬が緩んでいくのがわかった。わたしもなかなか捨てたもんじゃない。これで詩乃に一歩近づいたなと思った。
部屋に入り着替えを済ませてスマホを見ると、都筑からラインが届いていた。
『今日は楽しかった。ありがとう、また誘うから』
すみれはそれを見て嬉しくなった。もっと早くこうしておけばよかった。
『こちらこそ、ありがとうございました。ランチは美味しかったです。いい店に連れて行ってくれて嬉しかったです』
すみれは都筑にラインを返してからスマホをテーブルに置いた。するとすぐにラインが届いた。また都筑からだと思ってみると、婚カツパーティで知り合ったもう一人の男性の河田徹平からだった。
『婚カツパーティでお話できて嬉しかったです。マッチングで選んでもらえなかったのは残念でしたけど、あなたのことが忘れられません。婚カツパーティでマッチングした方とお付き合いをはじめているのですか。もし、そうならご迷惑になるので、連絡はこれきりにします。返信いただかなくて結構です。でも、もしお付き合いしていないのなら、俺にもチャンスをください』
最後によろしくお願いしますというスタンプがついていた。
すみれは自分が男性からこんなにアプローチされるとは思ってもみなかった。嬉しくて胸がときめいた。女として自信もついた。都筑とはお付き合いはしていない。ただの男友達だ。さっき彼にそう伝えたはずだ。詩乃は言っていた。一人に絞る必要はない、男友達をいっぱい作って、それから相手を見極めて絞りこめと。
『ご連絡、ありがとうございます。マッチングした方とはあれから何度かラインしたり電話で話したりしました。食事に一度だけ行きましたが、それは友達としてでお付き合いはしていません。相手の方のことをもう少し知ってから判断しようと思っています』
すみれは河田徹平にそうラインを返した。すると、すぐに河田からラインが返ってきた。
『そうですよね。確かに出会って数時間でマッチングの相手を決めて、それから一週間くらいしか経ってませんからね。それで付き合うかどうか決めるなんて早すぎます。その方と今は友達ということなら、俺にもチャンスがあると思っていいわけですか。それならパーティの時は負けちゃいましたけど、今度は絶対に勝ちます。今度こそあなたの心をつかみます』
すみれは河田からのラインを見てお姫様にでもなった気分だった。
『はい、よろしくお願いします』
ペコリと頭を下げる絵文字をつけて返した。
すると、すぐに既読になってラインが返ってきた。
『じゃあ、今度食事に行きましょう。来週日曜日はどうですか』
日曜日は都筑との約束があった。
『来週日曜日は部屋の掃除や洗濯をしないといけないので土曜日はどうですか』
すみれはそう返すとすぐに既読になってラインが返ってきた。
『土曜日ですか。わかりました。じゃあ土曜日にデートしましょう』
『楽しみにしています』
すみれはそう返した。
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