~Prologue~

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エッフェル塔で撮影の仕事を終えたシエルは 時間が押したことにヤキモキしていた マイペースなレイは おとなしくホテルで自分を待ってはいないだろう 案の定、ホテルの部屋には 『ここに居る』 と走り書きされたメモが地図と一緒に置かれていた レイは怒っているわけでない ただ、彼には彼のペースがあるだけ わかってる そのペースを乱してしまったのはオレだ 「美味しそうなランチボックスを買ってきたんだ」 見て、とレイの目の前に紙袋を差し出した レイもきっと空腹なはずだ 「許す」 紙袋を覗き込んだレイは 一瞬だけ目尻にしわを寄せて微笑むと 画集を棚に戻してシエルを見つめた 「行くぞ」 そう言ったときには レイはもう、シエルより先にドアに向かっていた スマートなキャラが売りのレイが 子どものような笑顔を見せるのはオレにだけ マイペースなレイを制御できるのもオレだけ シエルはレイの少し後ろを歩きながら 複雑な優越感に浸っていた 「Revenez ici, monsieur.」(またおいで) 銀髪の老店主が二人に向かって声をかける 「D'accord, merci.」(OK。ありがとう) レイが応える いつの間に仲良くなったのだろう レイはいつだって周りの人間を虜にする 『オレだけのレイでいて欲しいのに・・・・・・』 シエルは『オレのだからね』と言わんばかりに 老店主にさえ敵意を見せる 日本人とは思えないほど長身の二人が店を出ると 店内の空気ががらりと変わるのを老店主は感じた 物語のページを閉じたように 店内が明るさを失う 鼻腔をくすぐる爽やかなシトラスの香りを残したまま......
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